ご存じネパールのお茶、ネパーリ・チャ。

「チャ・チャイ」か「ティー・テ」かで文化が変わる、と喝破したのはかの有名な元祖バックパッカーの一人、沢木耕太郎さんだが、ご存じの通りネパーリ・チャはミルクで煮出す。

ネパールに限らないが、水+ミルクで煮出すお茶はここ南西アジアではポピュラーで、お湯で出してからミルクを入れる、「ミルクティー」とは、全然違う。

よその国は知らないが、ネパールで紅茶を煮出すのにミルクを主体的に使うのは、たぶん、良い水が簡単に手に入らないからだ。
今でこそカトマンズ中心部では、水道もそれなりに発達し、飲料には適さない、と言われながらも、食器を洗ったり、洗濯をしたり、体を洗ったり、様々に使われる水の大半は蛇口から出るようになっている。水道事情が悪く、いわゆる「買い水」をしないと水がないことも多いが、地方の大半が「川に水を汲みに行く」のが普通であることを考えると、ソーマッチシビライズド、と言わざるを得ない。

山岳地帯ネパールでは、家から川までちょっと降りて、水瓶に水を汲んで帰ってくるのは、主として子供、女性の仕事である。「ちょっと」と書いたが、彼らの足でも30−40分程度、我々ならば1時間は確実で、日本で言えば立派な「軽登山」である。子供たちは日の出前に起きて、お母さんの淹れたお茶を飲み、家によっては軽い食事をした上で、お昼ご飯までには水汲みに川に降りる。学校は、家事の合間についでに行く。

「あの村は便利だ」と言われるところ(たいていの場合地図に名前の出ている村)では、山のわき水等を利用して、村の共同水場が設置されていたり、パイプで配水していたりするのであるが、そういう村に居ない人たちは、当然のように家から川まで水を汲みに降りる。

水瓶には通常、5リットルから10リットルは入るから(それでも少ない方だ)、単純に言っても5キロから10キロの重さになる。これを頭に載せ、または腰にちょっと引っかけ、子供も女性もひょうひょうと家までの道を「登る」。ワタクシタチ「文明人」が、リュックに水筒だけ入れ、立派な登山靴をはいて、荷物はポーターに持たせて、自分はほとんど空身でゼエゼエ言いながら1時間かけて登る道を、この人たちは水瓶を携え、足にはサンダルを履いて、30−40分で登ってしまう。追い越しながらニコッと笑い、「ナマステ、サー」などと言っている。

これほどまでにしてくみ上げてくる水であるからして、炊事に洗濯に身清めには使うにしても、「ちょっとのどが渇いた」ぐらいでそう簡単に飲むわけにもいかない。

・・・であるから、お茶を入れるのには牛なり山羊の乳をたくさん使うのに、違いない、きっとそうだ、とワタクシは、勝手に思っている。