(つづき)

それにしても・・・と、少し落ち着いたアタマで考える。よく校舎が倒壊しないで保ってくれたものだ。

この校舎は、以前の校舎から引っ越しを余儀なくされた際に、日本人会その他関係者に広く呼びかけ、広くて、頑丈で、でも安くて、使いやすくて・・・と、無い物ねだりの依頼をして大ブーイングを浴びる中、どれも良いのがないので、この際安いところで、と、決めかかった、最後の最後のタイミングで、卒業生保護者から紹介があった物件だ。

部屋の数、鉄筋コンクリートを使った構造、車を止められるスペース、簡単な運動ができるスペース、その他、申し分のない物件として、入居を決めたのを思い出す。
と、安心している場合ではない。そうは言っても、強い余震が来て倒壊しないとも限らない。

思いついてA先生に相談する。

「備蓄の水、非常食料等、持ち出ししてしまいませんか??お願いしていいですか??」

補習校では、大ボトルのミネラルウォーターや調理用ガス、軽食等を、十分ではないにしても、備蓄してある。
A先生、その場にいた男性陣が、意図を察して躊躇なく持ち出し作業を始める。

「これ、水が足りないと思うんで、自分、買ってきます。どっか、開いてると思うんで」
「弁当だけじゃなくて、教室内の教科書ノート、帰り支度に必要なものも、出しちゃいますか」
「コップがないので、使い捨ての食器も出しておきましょうか」

かなり落ちついてきたのか、全員の動きが有機的になってきた。

と、そこへ、例の早退者の件をお願いしていた先生が報告に来てくれた。

「本人が、学校を出る前にお母さんに電話をして、『今、(学校を)出た』と言っていたそうで、それが11時30分だそうです。着信時間を見て貰ったので間違いないと思います。今日は土曜日で空いてるので、その時間であれば震災前に学校に着いてると思いますし、着いてれば、あの学校なら大丈夫だと思います」

聞いて、胸をなで下ろした。普段から、こういう連絡をキチンとするご家庭なのだろう。どこに居るか分からない、となれば大騒ぎしなければならないが、少なくとも、車で補習校を出て(やはり車が手配されていた)、その時間経過から、多分、先方の学校内に着いている、という観測が可能で、かなり行方不明の確率が低くなった。


何巡目かの大使館コールで、今度は大人の安否情報を送るように指示があった。これはだいぶ前に、手の空いている先生にお願いしていたので、確認すると、すぐにメモ書きが回ってきた。氏名、性別を読み上げて報告する。

この交信が終わると、急にやることがなくなった。


(つづく)