(つづき)

1本は、ワタクシがここネパールに来て以来、ずっとお世話になっている在留邦人の大先輩からであった。


「おい、ワタクシ、今回の件は、日本人会はなにか対応を協議してるか???」

と問いかけたその先輩は、

はあ、まあ、これから・・・(だってインバータ、上がっちゃったんですもん・・・言えないけど・・・)

と、もごもご要領を得ない返事をするワタクシに、

「これぐらい大きな災害だと、必ずマスコミマターになる。その時になって慌てないように、ちゃんと理事で話し合って、できるだけの対応をするんだぞ」

と、貴重な助言をくれた。

はあ、それは分かっていますが、具体的にはどのような・・・???

とお伺いすると、

「まずは大使館連携。それから安否確認。あとは情報の収集と会員への提供だろうな」

と即答して頂いた。サスガに元日本人会会長を勤め上げただけのことは、ある。

なるほど、大使館連携、ね。それから安否確認、と。これも名簿が大使館管理だから、いずれ大使館だな。情報の収集は、まずは理事の中で話して・・・、と考えていたら、すぐに二本目の電話が鳴った。

こちらは大使館の担当者からであった。

「ワタクシさん、大使館ホールに短期旅行等の避難者がお出でているんですが、食事の提供をしてくれるところ、ご存じないですか??昨日は近くのベトナム料理屋に頼んだんですが、今日は断られてしまって。こてつに電話してるんですが、携帯が通じないんですよ・・・」

と、ほとほと困り切った様子であった。

サイゴンフォーという、そのベトナム料理屋は、旦那さんがネパリ、奥さんがベトナミーズであるが、典型的な、絵に描いたような肝っ玉ベトナミーズの奥さん、かつてバッタライ首相が悲願のSAARC開催のために道路拡張を始めた際、大半のカトマンズっ子たちが、

「どうせできっこないホラ、ジュルス(デモ行進)して、バンダ(ゼネスト)して、工事の妨害してればバネ、そのうち政府もあきらめるしかチャヒンチャホラ」

と言ってた時に、どうやって情報を集めたのかさっさと有名ホテル前の一軒家を借り切り、内装工事とスタッフ育成を進めておいて、どうやら政府が本気で道路拡幅やるらしい、こりゃマズイ、と、カトマンズっ子たちが慌て始めた頃には、準備万端でお店が開いていた、という、まあ、ホントにしたたかに服を着せて英語をしゃべらせたようなご婦人である。

そのお店が、カトマンズ中が、いや、ネパール中が大混乱し、余震の恐怖に怯えていた昨日、大使館からの依頼を受けて、有料ではあるが(まあ、お店だから、それはそうだろう)、短期旅行者のための食事提供を引き受けてくれたらしい。が、サスガにスタッフも地元に帰り、自分たちもお店の後始末をし、今後の見通しを立てなければならない中、2日目のこの日は、食事提供サービスは引き受けてもらえなかったとのことだった。

実はこのご担当、本当は昨日から大使館前の日本料理屋である「こてつ」に炊き出しを頼もうとしていたらしいのであるが、携帯電話がまったく通じなかったそうである。昨日は上述の通りなんとかなったが、同じ店に断られてしまい、状況確認も兼ねて、ワタクシに電話してみたそうである。「こてつ」さんには仕事の上でも、プライベートなアソビの上でも、非常にお世話になっているワタクシ、このところ携帯電話のつながりが悪いことは知っていた。

「いや、自宅に居ると思います。これから行ってみます」

とお伝えすると、ご担当も自分で足を運んでみる、とのことである。では、アチラでお目にかかりましょう、と伝えて、電話を切った。


素早くアタマを整理する。

インバータがダメな以上、ネット、ワイファイは、使えない。つまり、自宅にじっとしていても仕方がない。情報を集め、大使館や理事とすりあわせするにしても、電話のバッテリがあがった時のことを考えて、電気があるところへ移動してから始めるのが得策に思えた。

だが、借り上げタクシーは昨日から連絡が来てないし、今日呼び出しても、おそらく仕事には来られないだろう。むしろ、家族やご近所との「共助」生活を邪魔しないように、一週間くらいはヒマにしておくのが礼儀というものだ。公務員等の公共業務従事者ならともかく、ワタクシは一介の民間人にすぎない。となると、我が家に残された移動手段は、その昔、友人から譲り受けたMTBしかない。徒歩は非現実的だし、タクシーは恐らく、走ってないか、ぼったくりか、のどちらかだ。その他の公共交通機関は、好きな場所に好きなように行けるかどうか、という点では、極めて機動性が低い。

MTBで動こう、と決めたものの、運動不足のワタクシ、中長期的対応が必要となりそうなこの状況下、ムリして倒れてしまってはお話しにならない。ちんたらちんたら走るくらいで、ちょうど良いに違いない。となると、帰りは遅くなる可能性が、大である。インバータがないのだから、戻って来る時には家の中は真っ暗だろう。ということは、ヘッドランプ等の照明、備蓄ロウソクの点火準備を済ませてから外出するのが得策だ。

考えてみると、お店もそんな状況なのだから、いま飛び出していっても、お昼を食べられるところなんか、ないに違いない。ということは、食料持参で行動しなければならない・・・。

自転車で外出する準備をしながら、そんなことをアレコレ考えているウチに、

「なんや、要するに、トレッキングに行く、と思えば良いってことか」

ということに気付いた。電気も水も食料も、ありとあらゆることを自分でやりくりして移動する生活。まさに、トレッキング生活そのものである(もっともトレッキングロッジには電気も冷たいビールも置いてある昨今だが)。


改めて山道具を引っ張り出し、使えそうな道具を選別して、ザックと小箱に小分けにした。これからの外出に必要なものは、バックパックとウェストポーチに収納する。雨対策のためのビニールも、いくつかバックパックに詰め込んだ。これに並行して、先々月興味本位で買い付けした「火力調整いらずメシ炊き釜」で、三合の米を炊き、海苔の佃煮を埋め込んで、にぎりめしを8個、作った。半分は行動食、半分は晩メシである。

電気がある場合の充電用機器やカメラ、その他の小道具も準備して、さあ、でかけるか、というときには、すでにお昼が近い時間になっていた。


(つづく)