(つづき)

オモテに出て走り出してみると、いつもの経路にたくさんのご近所さんがたむろして、ああでもない、こうでもない、と侃々諤々である。いつもは借り上げタクシーか、徒歩かでうろうろしているワタクシが、バックパック(デイパック)を担いでウェストポーチをつけてMTBで走るのを見て、驚いて、目が釘付けになっている(ようだ)。なかには、指さして何かを叫んでる人まで、出てきた(オレはドローンちゃう、ちゅーねん)。


どうやらご近所さんには大きな被害はなかったらしい。カベが倒れたり、建物の接合部にクラックが入ったりはしているようだが、倒壊だの、死亡疾病だの、は、免れたようである。良かったねえ、みんな・・・と胸の内で思いつつ、ペダルをゆっくりと漕いで進む。


と、ラジンパット通りに出るまでの道すがら、いつもの八百屋が開いていて、思わず足が止まる。

イモやタマネギその他の根菜類は保存が利くので、まあ、仕入れがなくてもお店が開く、というのはわからなくもないのだけれど、いつもの棚に、いつも通りに青菜が積んであって、それがバックのニンジンの赤やピーマンの緑、大根の白とコントラストをなしていて、なんというのか、まあ、思わず感動してしまった(いや、感涙に近いか)。その後、この八百屋さんで見かけたところでは、タメルに居るリキシャ、あれが野菜を山と積んで、仕入れの手伝いをしていたようである。このお店、普段はバイクのおっちゃんが買い付けに行っているのをワタクシは知っているのであるが、道路事情なのか燃料事情なのか、あるいはおっちゃん個人の(被災の)事情なのかはしらねど、リキシャ輸送(この字づらもすげーな、りきしゃゆそう)が、かなり有効に機能していたようである。

ちょっとネパールをご存じの方であれば、こう聞くとすぐに、

「あ、じゃあ、リキシャが輸送費をぼったくって、その分、野菜の値段が高騰したんじゃない??」

と思いがちであるが(いや、悪口を言いたいのではない、ワタクシも、そう思った)、驚くなかれ、値段は1パイサたりとも、上がらなかったのである。その先にある、ついこないだできた競合八百屋も開いており、さらにその先、路上でご開帳している露天商的八百屋も、いつも通りに野菜を持ってきて売っていた。

うれしくなったワタクシは、簡単・安価・栄養満点の「ほうれん草」を、不必要と知りつつも、あるときに買わないといつなくなるかわからない、という不安も手伝って、両手に山盛り、そうね、5把がひとつの束になったやつ、アレを3束ばかしとりあげて、おそるおそる、

「な・・・なんぼ・・・???」

と問いかけてみると、

「ティス(30)」

との回答で(!)、いつも通り・・・というか、むしろ安くなってないか??というような値段であった(笑)。

考えてみれば、被害が出てない畑には次々と収穫期の野菜ができていくわけで、これを放っておいても仕方がない、お金にできるなら、と、街まで歩くなり、誰かに送ってもらうなりして売りに来るのも当然といえば当然の判断である。であれば、少なくとも、今、植え付けしてある野菜は当面このあたりに入ってくる見当なわけであり、これで心配の対象はタンパク質等(肉、魚、乳製品)に絞られ、胸をなで下ろすワタクシであった。なに、タンパク質は植物性のものもあり、豆好きで知られるワタクシ、乾燥大豆でも食ってりゃあ、当面は健康被害が出ることもないだろう。


ラジンパットの通りに出たが、やはり昨日タメルから歩いてきた時のまま、ほとんどいつも通りの光景で、甚大な被害や目を覆うような惨状は、見受けられないのであった。ただ、通行している車の数は極めて少なく、緊急車両、青ナンバーの外交団・国連関係車両、荷物を満載にした(必ず人が乗ってる)タクシー、思い出したかのように通り過ぎるテンプーとマイクロ、やはり、MTBで移動する、と決めて、正解だったようである。


後でFB報告するため、ラジンパット通りの写メを撮って目的地に急ぐ。といっても自宅から歩いても10分もかからないので、あっ!、という間に到着してしまった。が、時すでに遅し、今朝大使館担当者から電話を頂いた後、外出時と帰宅時の準備をしてメールまで送っていたのが災いし、「こてつ」さんの調理担当・Kくんは、すでにお店に向けて出発してしまった後だった。ここから大使館方面はゆるやかな上り坂ではあるが、仕方がない、お店へ向けて方向転換する。

この道程は昨日は通っていない道筋であるが、走りながら左右を確認したところ、致命的な被害は出てないように見受けられた。

ラジンパットは、かなり軽度の被害状況なんだろうなあ・・・と思いつつ、パニポカリへの坂道を登った。


(つづく)