準備品を担いでBMMに向かってみると、シャッターは閉まっているが、店の脇からレジ袋をぶら下げた欧米人が出てきた。案の定、裏口は開けて商売しているのだ。嬉々として中に入り、大丈夫だったんだね〜〜、よかったね〜〜!と声をかけながら買い物メモにある商品を集めていると、ふだんはめったに立ってこないおっちゃんが、ワタクシに詰め寄って、こう言った。

「ジャパニ(彼はワタクシをこう呼ぶ)、早く買い物して、支払い済ませて外に出てくれ。アンタが買い物終わり次第、すぐに店を閉めるから」

普段とは打って変わった、切迫した様子である。

そう言われても、自分用のものを買いに来ているのならともかく、今は、食事提供を待っている数十人の日本人短期旅行者の方々向けに、食器その他を調達に来ているのである。お金を頂く以上、薄汚れた感じがしたり、大きすぎたり小さすぎたり、よくある、薄っぺらーーーいお皿だったりしたのでは申し訳ないので、それなりのものを探さなくてはならないではないか。

うんうん、わかったから、ちょっと待ってね・・・あ、あそこの上に見えてるお皿の方が良いかも、ちょっと脚立貸して・・・などとやっていたら、

「ちっっとがるぬすたはあああぁぁぁ〜〜〜い!!(はやくしてくれええぇぇ〜〜〜い)」

と、おっちゃんが泣きそうな声を出す。なになに、なんだよ、何があるの??と訪ねるワタクシに、おっちゃんが待ってましたとばかりに、言い放った。

「あと2時間以内に、昨日の2倍の地震が来るんだよ!」


・・・・。

・・・・・あのね・・・・・


「・・・なにそれ?誰がそんなこと言ってるの??」
「さっき来たお客が、NASAの発表で、あと2時間以内に昨日の倍の地震が来るから気をつけろ、っつってたの!いいから、早く買って、アンタも家に帰りなさい!」

・・・これは聞き捨てならない。ワタクシがネパールでのたくってるウチに、地震予知技術がそこまで進歩していたとは・・・。

そういう研究があるのは知っている。大気中の電磁波等を読み取って、地震の発生場所・時間を予知する技術だ。あるいは、活断層の断裂規模を極小化するために、人工的に断層を破壊し、いわゆる「人工地震」を発生させる技術もあると聞く。NASAの発表なら、これはかなり確度が高いのではないか。地震研究は今や最先端の科学に支えられ、相当程度、前もってわかるようになっているとは聞いていたが・・・。これは買い出しなどしている場合ではない、皆に知らせなければ。いや、まず自分の安全確保だ・・・。


ん??

待てよ・・・???

NASAって、アメリカ航空宇宙局、だよな。アメリカにはUSGSを始め、地質・地震学の研究所がたくさんあるはずだけど、なんで、NASAが発表したんだろう・・・???

「NASA、だよね??」
「NASA、だ。(ソレ見ろ、やっとわかったか!って、ツラだ。おっちゃん、勝ち誇って鼻の穴が膨らんでる)」
「NASA、って、宇宙研究するところでしょ?なんでそこが地震の時間を発表してるの??」
「・・・・・・・知らん。・・・知らんが、NASAは科学の最先端だ(イラッとしてる)」
「まあ、そりゃそうだけど・・・。そのハナシ、誰から聞いたって?」
「だから、さっき来たお客だ。BBCのニュースでやってたと言っていた」
「・・・・・・。NASAなら、やってるのはCNNじゃないの??」
「BBCでもCNNでも良いの!NASAが言ってるの!・・・買うの、それだけっっ?!(と、計算を始める)」
「うん、これで良いけど・・・。あの、その、NASAが2時間以内、って言ったのは、いつなの?あとどれくらいで2時間なの???」
「知らん、さっき聞いたから、今から店を閉めて、家で2時間待つんだ!!ハイ、XXXルピー」
「(渡しながら)でもさあ、地震って、何時間後に来て、何時間後に大丈夫になる、とかじゃ、ないはずだけど」
「いや、それは大丈夫だ。2時間以内に来なければ、あとは明日まで大丈夫だと言っていた」
「・・・!?いや。いやいやいやいや、それって?!それは、誰が言ってたの?」
「それも同じ客だ!いいから早く家に戻れ!ジョティシ(占星術師)が言ってたんだよ!」

だいぶハナシがあやしくなってきた・・・。

そもそも地震を時間単位で予測することなど、まだ実用的になってないハズだ。日本でそういう研究をしていて、かなりの確度で予知している研究者が居ると聞くが、なんのデータも取れないネパールで、そんな予知が可能なものだろうか??よしんば、なんらかのデータ提供がなされていて、NASAとはいわなくても、それなりの研究機関が正規に発表し、本当にBBCなりCNNなりの国際報道機関が(それもジャーナリズムにかけては第一級のところが)報道しているのであれば、なぜ、大使館等から、お知らせが来ないのか。さっき会った大使館ご担当は、そんなこと、みじんも言ってなかったではないか。

NASAが発表して、BBCが周知しているほど確実な情報の割りに、それが過ぎたら後は大丈夫、と、占星術師が言っている、という、リソースのちぐはぐさも、大変気になる(というか、ちょっとオモロい)。

このハナシについては、ここでおっちゃん相手に一人で頑張っても、とうてい確認できるものでは、ない。どこかびびったままの自分の中では、笑って無視することがかなり難しいのだが(ホントに信じそうになったんだってば!)、かなり怪しげなカンジがするので、直感を信じて、大使館へ向かうこととした。


(つづく)