(つづき)

後日談だが、こうした、

「今日の〇時から〇時の間に、これこれの大きさの地震が来る!」

という「ウワサ」は、発災からしばらくの間、うんざりするほど聞かされた。しかもその都度、ネパールの方々はそのウワサに従った避難行動を取るので、仕事は止まるわ予定は狂うわ、ワタクシ一人が

「大丈夫だってば、みんな!」

と思いながら行動してても、そちらの方が異端なので、

「オレがおかしいのか???」

と不安になり・・・いや、まあ、とにかく、疲れた。
FBなどでも、

「どうしてこんなウワサを流すのか」
「なんでそんなデタラメを信じるのか」

といったトーンの記事をたくさん見かけたが、ワタクシの理解は、少し異なる。


まずネパールの方々には、地震の科学的な知識が、極めて乏しい、というベースがある。よくいわれる、就学率や識字率が低く、概念として理解できていない、ということ以上に、身をもって体験したことがない、という、経験値の少なさも、大きな原因である。上述の、〇時から〇時の間に地震が来る、という以外にも、

「今日で地震から72時間経ったから、もう大丈夫」
「今、地震が来て、あっちに通り過ぎていったから、もうすぐ戻ってくる」
「今日で地震から7日過ぎたから、仕事に行こう(35日、49日のパターンもあり)」

等々、一瞬意味不明の言動をたくさん聞いた(もっとオモロイのもたくさん聞いたが、それは話して下さった方々がご自身のFBなりブログなりでお書きになるだろうから、パクりは止めておく)。

一つ目の発言は、ご想像の通り、生存可能期間(72時間のカベ)とゴッチャになっているケース。二つ目はよくわからないが、おそらく、津波の断片的知識と混じったケース。最後のものは、当地における人間の死亡後の儀式とごっちゃになったケース(日本と同じ、初七日や四十九日の発想である。というか、そもそもこちらの考え方を、日本が輸入しているだけだ。地獄の王が「閻魔大王」なのは、この根源にあるヒンドゥーとサンスクリットの世界に居る元々の王様がYama Raja(地獄の盟王ヤーマ。ラジャは大王の意)だからだ)。

このほかにも、外に出て、女が両手の親指で地面を押さえると鎮まる、とか、アメリカがインド中国の台頭を牽制するために人工的に引き起こした地震だ、とか、いろんなウワサを聞いた。これらウワサの出所には、カトマンズでしかるべき教育を受け、英語で仕事をしている方々も、多々、含まれている。

いずれも、科学的知識に基づいて考えることができれば、すぐに正しくないことがわかるハナシばかりで、そもそも、地震というのがどういう現象で、どういう風にコントロールできるのか、できないのか、ということが、根本的にわかっていないことが明白である。

地震国日本に育ったワタクシたち、ワタクシなどは比較的地震には縁遠い九州・福岡の出身であるが、それですら、地震が、地球のプレート活動に端を発する自然現象で、プレート崩壊現象の強度等でマグニチュードが決まり、震源の深さや遠さ、居る場所の地質等によって震度が変わり、揺れの周期や長さ、縦揺れ横揺れの違いが複合的に作用して、ある時は高層建築を揺らし、ある時は中層低層建築を倒壊させ、ある時は揺れの割りには殆ど実害が出ない、等々、一応の基礎的な知識は持っている。阪神淡路では地震そのものによる圧死と、その後の火災で相当被害があり、一方の東日本は地震そのものによる被害は大きくなかったのに、その後の津波で甚大被害が発生したことなど、大半の日本人が知っているのである。


・・・が。

ともかくネパールの方々は、「一定時間が来たら、地震は終わる」と考えている。

「天気予報のように、地震予報が出せる」とも、信じているようである。

これは恐らく、「自然現象」という大きすぎる概念で、地震と、モンスーンをごっちゃにして理解しているに違いない。いや、これら二つが違うことは、なんとなくわかっているハズだが、経験したことがないものだから、

「インド気象庁によれば、明日〇時に地震が発生し、地震期間入りします」
「インド気象庁によれば、今日で地震期間は終わり、明日からは地震期間明けです」

といったような感覚でしか、地震というものを捉えられないのではないか、と思う(誰か、アンケート調査してくれませんかね、こういう誘導的設問も入れて)。「インド気象庁」の部分が、国際的有名機関であれば、なお、信じやすい。


(つづく)