(つづき)

給食準備、と言ったって、店は閉まったまま、徒歩15〜20分くらいの自宅にあるものをかき集め、足りないモノは「ジョティシ(占星術師)の地震予報」に怯えながら、かろうじて店を開けているところから買い集め、コンロもナベも、包丁ですらも、自宅のものを持ち込んで応急でやっているわけであるから、まあ、バタバタである。

水は大使館内で分けてもらえることになったのだが、これとてセキュリティの問題があるので、自由に出入りする、というわけにはいかず、都度、

「スミマセン、水です・・・」

と電話をして、中でこちらもバッッッッッッタバタでやってる館員の方々に(いちいち)開けてもらう、という、中にも外にも、なかなかストレスフルな状態での調理開始となっていた(外にも水道はあるが、飲料にはキビシイ)。

こうした中で、ネパール人シェフはあまり動じる風もなく、淡々黙々と野菜を切り、焼そば用の麺を茹でていく。家庭用のナベ、家庭用のコンロだから、モチロン一度で終わるわけがなく、茹でては湯を切り、ざるに空けては野菜を切る。もう、周りには短期旅行の方々が集まって、「おお!焼きそばだ!」と歓喜の声を上げておられるので、モタモタしてはいられない。

Kくんに訊いてみると、おにぎり用のごはんについては、量も多く、ガス・水が一定量必要なことから、手慣れた自宅のキッチンで炊きあげ、自転車で運んで避難所(ホール)へ持ち込み、その場でにぎる、という。

とりあえずワタクシは、買ってきたものを袋から出し、調理に必要なもの、給仕に必要なもの、販売に必要なもの、等に分けて並べ(大型机を大使館に借りられたのが収穫だった)、コック二人の段取りを確認したところで、やることがなくなった。

周囲に居られる方々にハナシを聞いてみると、昨日到着したばかりで右も左もわからない、という方、仕事で調査に来たのに、まったく動けず困っている、という方、中には仕事を定年退職し、これからは世界を見て回ろう、と、手始めにネパールに来た途端に被災した、という方もいらっしゃって、みなさん、まったくもってお気の毒である。
それでも大使館ホールならば多少の揺れ(余震)ならびくともしないし、トイレや水回りも、そこいらのヘタなホテルよりは上等である(そりゃそうだ、なんせ各国大使館は日本仕様の設計で、日本のゼネコンが施工している)。

急きょ避難して不安の一夜が明け、みなさん、やはり食べ慣れた食事が待ち遠しい様子だ。


そこへ、炊きあがったご飯が届く。見ると、ふだんKくん達とサケ呑んで遊んでもらっている女子までがチームに入っていて、ビックリする。自宅に一人で居るのがイヤで、みんなで合宿中だそうで、こういう人海戦術作業中には、天佑である。併行して火にかけてあったナベからも湯気が上がり出し、音や匂いに誘われて、避難者のみなさんが集まってきた。


ここでワタクシ、ふ、と気付いた。

これ、ちゃんと仕切りしないと、てんやわんやにならへんか・・・???

お互いに顔を知らない者同士、テーブル番号があるわけでも、引換券があるわけでもない。おにぎりと焼きそば、メニューはそれだけ、で、あるが、やはり、注文順というものがある。お腹が空いていて今すぐにでも食べたい方もいらっしゃれば、今はそれほどでもないけど、とりあえず買っておいて後で食べようか、という方もいらっしゃるに違いない。これが前後したり、最悪、足りなかったりすると、心情的には大事件である(いや、こっちが。申し訳なくて)。あるいは、すでにお金を貰っているのに、「こちら〇〇ルピーになりま〜す」「え?さっき渡したけど?」的なやりとりも、できれば避けたいところだ。ホールの中に思い思いに座っておられるみなさん、ここへ注文の通りに配膳するのは、かなり難事業のように思えた(またまたあ、たいしたことないくせに!ワタクシさんっっ!!)。

いつものメモ帳を取り出したワタクシ、とりあえずお名前をお伺いし、注文内容を書き留め、金銭のやりとりについても記録をしておくことにした。みなさんも、調理台の前で立って待ってることが不要になった。


震災のたびに世界から賞賛を浴びているのは知っていたが、日本の方々というのは、こういうときでも本当に知的だ、ということを実感した。

こちらが混乱を避けたくて(つまり、こちらの都合で)頼んでいるにもかかわらず、キチンとお名前をおっしゃり、

「おにぎり〇個、焼きそば△つ・・・だから、〇〇〇ルピーですよね、先に払っときます」
「あ、おつり足りないかも、ですね?・・・(となりの人に)まとめて頂けます??後で両替して払いますので・・・」
「申し訳ないんだけど、ちょっとお腹が悪いので、タマゴ、しっかり焼いてくれる?一番最後でいいから・・・」
(※この日の焼きそばは目玉焼き乗せスペシャルであった)

泣けてくる。

周りを気遣い、相手を気遣い、邪魔にならないように、独り占めにならないように、気配り目配りできる方々。このうちの何人かとは、後日、あるNGOの事務所で一緒に作業をすることになるのだが、まったくの初対面にもかかわらず、なんだかワタクシの方が誇らしい気持ちになったものだ。


(つづく)