(つづき)

ゲートを出たところで、ケータイを充電してないことに気がついた。引き返して電気を頂き、iphoneとiPadを充電する。出てきたばかりだったので、給仕作業のみんなの目につかないところでやっていたら、顔見知りの在住者が一行でやってきた。

自宅が被災し、近所の避難所に逃げ込んだらしいが、インド人が主体だったその避難所、インド政府が大挙して飛ばした救援機に「タダで乗れる!」と聞いた途端に一目散に空港へ殺到し(笑)、避難所には大人の男がほとんど残らず、そうなると女性と子供で避難していたその方々、急に心細くなって、大使館ホールへ避難してきたとのことであった。


まあ、そんな事情でけっこう目立つ場所に座っていたワタクシ、どさくさでiphoneやiPadがなくなっちゃったら、イヤだなあ、と思って機器の横に居ただけなのであるが(&「お疲れさまです!」と送り出されたのでホールには戻りづらかったというのもあるが)、外からお出でる方々には、職員の一人と勘違いされたようで、

「避難したいんですけど」

とか、

「ここでお金借りられるって聞いたんですけど」

とか、

みなさん、ワタクシに向かって受け付けをお願いしようとする。

その都度、「いや、ワタクシ、職員じゃ、ないもので・・・。こちらの警備の方におっしゃって下さい」と説明し、多少の通訳もしてみたりした。中には、壊滅状態になったランタン村で立ち往生しているお客さんの、救援を依頼に来たネパール人ツアーエージェントなどもいらっしゃって、こちらは警備の方が緊急性をイマイチ把握しずらかったように見えたので、ちょっと出しゃばって職員の方につないでみたりもした。

そうこうしているうちに電子機器の充電も終わり、改めて関係方面に電話をして情報を確かめたところ、みなさん、かなり努力して新情報を集めて下さっていて、早速、臨時号を発出する。ありがたいことである。ただ、自宅以外で作成、送付する臨時号はこれが初めてだったことから、タイトルやら時間やらがめちゃくちゃで(これが3号だったが、タイトルは2号になってた・・・とか、その他イロイロ)、多少受信者を混乱させてしまったかもしれない。


発信が終わり、さて、どうするか・・・と、考えた。

すでに夕方17時近くになっており、このまま自宅に戻るのが無難なようにも思えたが、気がついてみると、自分では新情報を全然手に入れていないではないか。ヒトにお伝えするほどの内容ではないにしても、開いてるお店や、通電している事務所やホテルやお茶屋さん、といった、自分にとって不可欠な情報ですら、未入手のままだった。

こりゃやっぱり、めぼしいところはグルッと見て回った方が良いな。

そう思ったワタクシ、大使館を出ると方角を北に取り、街の状況視察と、知り合いの事務所やお店の通電状況の確認に走り始めた。こちら方面も、この時が初めての通行だったが、これまた殆ど被害が出ていない(ように見える)。昨日、本日、と、数多くの被災写真を見ていたアタマには、どうしても違和感が生じてしまう。昨夕、ラジンパットを歩いていた時の、被害がないのがおかしく感じる、あの奇妙な感覚が蘇ってくる。

と、やはりいくつか、致命的なひび割れが入っている建物が目に入る。「やっとあった」という思いが湧いてきて、それに気付いて愕然とする。ワタクシは、いつの間にか被害を探すようになっている。倒壊した建物に出会うと、奇妙な安堵感を覚えるようになっているほどだ。当事者にとって、どれだけ甚大な被害だったことか。肉体的にも精神的にも、耐えがたい被害だと思うが、道行く人は立ち止まり、車を止め、スマートフォンで写真を撮影していた。


撮影したあの写真を、この方々はどうするつもりだろうか。

ただでさえ、事故や事件で発生した遺体を、へーきでテレビニュースで映し流すクニである。家に帰り、奥さんや子供や家族一同にその画像を見せ、ネットに載せ、メールで拡散するなど、なんの抵抗感もないのかもしれない。しかしワタクシはどうしても、被害映像を撮影して、それを拡散する気には、なれなかった。そもそも、被害者がご存命の場合、通りすがりの外国人に(見た目は山系キラーティだが・・・。って、ほっといて!笑)写真を撮られ、ネットで報告されるなど、屈辱以外のなにものでもなかろう。救助や援助を求める方々が、すでにたくさん惨状をネット上に載せており、ワタクシがこれ以上の報告をする必然性は、かなり薄いように思われた。載せる方々は、載せれば良い。ワタクシは、必然性のある画像以外は、載せまい、と決めた。

そんなことを考えながら、やはり殆ど閉まっている(が、心の中ではアテにしていた)お店の前を何件も通り過ぎ、途中から南西に走る道路に入って、旧知の会社事務所にたどり着いた。

中では見知ったネパール人スタッフ達が、状況報告や交通手段の確保等で忙しく立ち働いていたが、ワタクシの顔を見るなり、「Oh!心配してましたよ、大丈夫でしたか??」と声をかけてくれた。「いや、その、自宅の電気がさ。ちょっと、その、じゅーでん、なぞ・・・もごもご」と話すワタクシに、

「だあああいじょぶですよ、じゅーでんぐらい、どーぞどーぞ。あ、ディディ、お茶一つ、ね。それからイス一つ持ってきてあげて。あ、延長コードも一つね。それからキッチンに行って・・・ワタクシさん、メシ(=ダルバート)食べますよね、うん、メシ一つ、至急作るようにコックに言って!」

と、下へも置かない対応をしてくれる。

この会社とはかなり縁遠くなってはいるが、げに持つべきものは、地場の知人である、と実感した。


(つづく)