(つづき)

本当はここからさらに北に向かい、マハラジュガンジ、ブダニルカンタ方面の様子も探りたいところであったが、時間と、なによりも自分の体力の温存のために、思い切って(思いを切って)、タメル方面へ舵取りした。

といってもせっかくの視察ツーリング、ラジンパット通りをただただ戻るのではもったいないので、少しルートを変え、首相官邸からシティセンターを通り、西に急進してタメルへ向かうことにした。

走ってみると、案の定、というべきか、あるいは(この状況下では)予想外、というのが正しいのか、ほとんど被害が出ていない。支線に入ったところで、上から下まで見事に倒壊している家に遭遇したが、ここも不幸中の幸いで、発災時、家の中にはだれも居なかったとのことで、人的被害は出てないそうだ。

無事な町並みを写真に収めつつ、シャッターの降りているバトパティーニ前を南下して右折、警察本部前からクマリシネマへ抜けて、そのまま王宮前を突っ切って、タメルに入った。この途上でも、いくつか倒壊している家屋を目にしたが、大半の建物はなんとか立ち続けており、少しやつれた地元の方々が、それでも、気丈にがれきの片付けを行い、食事の準備等にいそしむのを目にした。


さて、タメル。

発災の日に歩いたので、損害がそれほど大きくないのは認識していたが、日差しの明るいうちに再訪したのはこれが初めてである。さすがにほとんどのお店がシャッターを閉め、人通りどころか人気が感じられず、居るのは行き先を失ったらしいバックパッカー然とした欧米人のみ、という状況であった。

後日聞いたところでは、まずネパール人自身が、怖くて営業どころではない、という心理状態で、従業員は田舎に帰るわ、オーナーは何かあったら責任問題なので開ける気しないわ、いや、オレは開ける!みんな困ってるんだから!と意気込むオーナーには、家族がよってたかって止めに入り、ママに泣かれたのがだめ押しで、自宅待機せざるを得なかった方々も、少なからず、いらっしゃったようである。まあ開けたところで電気は来てないし、食事のサービスも満足にはできないだろうし(材料もなければ、コックも居ない)、おまけに建物被害が判然とせず、余震の可能性も高い、となれば、閉鎖するのも賢明な判断である。どうせ仕事がないなら、と、従業員に支援物資と支援金を持たせて、ここぞ!とばかりにボスぶりを発揮した経営者も、たくさん居たようだ。

そういう状態であるから、短期滞在予定の旅行者はみな途方に暮れており、これをサポートするエージェントも開いてない、というような状況で、泊まるところもメシを食うところもなく、空港の状況を訊きたくてもエージェントは閉まっており、では直接空港、といっても、タクシーもほとんど走って居らず、かろうじて旅行局がバスを出していたようだが、これとて運航スケジュールも停留場所も「口コミ」でしか情報がなく、しっかりしたエージェントはフォローもキッチリやっていたようであるが、自前旅行の方々には、極めてキビシイ日々が続いていた。

ふだんウロウロしているタメルの路地を駆け巡ってみたが、建物はそのままで、まったく人が居ない、という光景はかなり異常なもので、おもわず宮崎アニメの世界に紛れ込んだような気がした。実際には上述した欧米人バックパッカーや、何人かのネパール人ビジネスマン等も居るのだが、気分的にはパパとママを探す千よろしく、ココにも、アソコにも、だれもいない!だれか!、と(心の中で)叫びながらのタメル巡りであった。タメルにはたくさん知り合いも居て、誰かに会ってもよさそうなものだが、やはり皆さん、自宅待機なり田舎支援なりで、この場にはいらっしゃらないようだった。

タメルが無事である、という報告写真だけ撮影しつつ、なじみの路地を抜けようとしたら、途中にある中華レストランで、無料の炊き出しをしているのが目に入った。

ワタクシはデイパックの中におにぎりがあるし、これを横取りするのは、なし、だ、と思いながら、それでも興味を惹かれてお店に近づいてみる。と、そこでは中華がゆとカンタンな中華漬け物(たぶんザーサイ)を無料で振る舞っており、けっこうな数の中国人旅行者が、ご相伴にあずかっていた。なかなか気前の良いことである。


と、ワタクシの横で座ったばかりの中国人男性が、おかゆを一口食べたかと思うと、すごい勢いでいきなり立ち上がる。なになに、どした?!と思う間もなく、なにかを叫びながら、

おかゆを、

床に、

巻き捨てた(!)。


ああ・・・きっと、マズかったのね・・・。

と、彼の表情を見やりつつ思いつつ、この行動がとれることに驚きを感じる。


電気も水も不足しており、ガスや食料品の調達見通しも立たない中で、これだけの人にタダで食事を出すのが、どれだけ大変で、決意の必要なことか。昨日のこてつさんは有料であったが、日本の人々は極めて上等であった。せっかくの好意と決意を踏みにじるような、この、おかゆの巻き捨て、もしワタクシが関係者であれば、首根っこひっ捕まえて天井から吊し、アブラをかけまわして北京ダックにしてやるところだが、お店の方々が黙っているので、でしゃばるのは、止しにした。考えてみればこの人も、旅行に来て被災してしまった不幸な方なわけで(たぶん)、自分がこれからどうなるのか、ものすごい不安を抱いているのかもしれない。

殺伐となった雰囲気にいたたまれなくなり、さっさと次の目的地、空港方面へ走ることにした。


(つづく)